狂言に「福の神」という演目がある。
参拝客二人の前に現れた 福の神が「毎年参拝に来るお前達を金持ちにしてやろう。だから酒をくれ」と要求する。
男たちが福の神へ酒を奉げると、旨そうに飲みながら金持ちになる秘訣を歌いはじめる。
「早起きをし、他人に優しくし、客を拒まず、夫婦仲良くすることだ」ということだった。
福の神が教えたことは、至極まともなことを、まともにやれと言っているだけである。
涅槃経では、福の神であるところの吉祥天と、貧乏神であるところの黒闇天とは、仲の良い姉妹であり、いいかえると一心同体なのだと言っている。
だから、一緒に現れて一緒に去ってゆく。
どちらかが一人だけで現れて、ずっと居つくことは無いということだろう。
仙台には、多くの店に仙台四郎という人の写真が飾られている。
仙台四郎は明治時代に実在した人物で、この人が立ち寄る店は皆繁盛した事から、福の神と言われるようになった。
四郎が街を徘徊して、店の前に箒(ほうき)が立てかけてあれば、勝手に掃いたり、店先にひしゃくを入れたままの水おけがあれば、勝手に水をまく、といった行動をとった。
ところが、四郎が掃除した店は繁盛すると噂されるようになり、「福の神」と呼ばれるようになって、その話が今も伝えられている。
福の神というのは、本当はどこにでもいるのだが、うまく見つけ出せてないだけかもしれない。