1.はじめに
日本は世界一の長寿国として知られる一方、「寝たきり大国」という深刻な問題を抱えています。厚生労働省の調査によると、2021年には65歳以上の高齢者のうち約130万人が寝たきり状態にあり、これは世界トップレベルの数字です。
寝たきり状態は、本人だけでなく家族・社会」にとっても大きな負担となります。介護の負担はもちろん、精神的なストレスも避けられません。さらに、医療費や介護費の増加は社会全体にとっても大きな課題です。
2.「寝た切り大国ニッポン」の現状
日本の寝たきり高齢者の数は、世界と比較しても非常に多いのが現状です。厚生労働省の調査によると、2021年には65歳以上の高齢者のうち約130万人が寝たきり状態にあります。2020年の調査では、65歳以上の高齢者における寝たきりの割合は、日本が21.1%なのに対し、フランスは13.7%、アメリカは12.2%となっており、他の先進諸国と比較しても非常に高く、世界の中でも突出しています。
日本の寝たきり率の高さを支える要因は複数あります。まず、世界トップレベルの高齢化社会であることが挙げられます。2022年時点で65歳以上の高齢者の割合は30.3%に達しており、今後も増加していくと予想されています。これに伴い、慢性疾患や運動機能の低下が原因で寝たきりになるケースが増えています。
さらに、核家族化や共働き世帯の増加、地域コミュニティの衰退など、社会環境の変化も寝たきり大国の要因となっています。
また、介護保険制度では、寝たきりの状態にある高齢者への支援が十分とは言えず、医療制度では、予防的な医療への取り組みが不足しているという指摘もあります。
具体的な事例として、家族が高齢者の介護を担うことで仕事や生活に大きな支障をきたしているケースが多く報告されています。このような状況は、社会全体に大きな影響を及ぼしています。
3.寝たきり大国ニッポンの課題
寝たきり状態は高齢者のQOL(生活の質)の低下を招きます。さらに、身体機能の低下によるADL(日常生活動作)の制限や、孤独感、喪失感などの精神的な苦痛が伴います。
家族への負担も大きく、介護疲れや経済的な困窮が問題となっています。家族にとっては、介護の負担や経済的な負担、精神的なストレスなどが重くのしかかります。介護疲れによるうつ病や、介護殺人などの悲劇も起こっています。
社会全体にも大きな影響を与えます。まず、医療費や介護費の増加が挙げられます。寝たきり高齢者の増加に伴い、医療や介護にかかる費用が膨らみ、経済的な負担が増大しています。厚生労働省のデータによれば、介護保険給付費は年間約10兆円に達しており、その大部分が寝たきり高齢者のケアに充てられています。介護保険制度では、要介護度が低い場合は十分なサービスを受けられないケースが多く、医療制度では、予防的な取り組みが十分に行われていないという課題があります。
将来的には、労働力の減少や経済の停滞を招き、持続可能な社会の実現が難しくなる可能性があります。
4.「寝たきり大国ニッポン」からの脱却
寝たきり大国からの脱却には、予防、制度改革、社会環境の整備など、多角的な取り組みが必要です。
予防としては、運動習慣の促進、栄養バランスのとれた食事、定期的な健康診断など、生活習慣の改善が重要です。また、認知症予防や転倒予防などの取り組みも効果的です。運動機能を維持するためのリハビリテーションや、健康寿命を延ばすための健康管理が必要です。
制度改革としては、介護保険制度の見直し、医療制度の改革、予防医療の推進などが挙げられます。具体的には、要介護度が低い場合でも必要なサービスを受けられるようにしたり、予防的な取り組みを積極的に支援したりする必要があります。
社会環境の整備としては、核家族化や共働き世帯に対応した介護サービスの充実、地域コミュニティの活性化、介護人材の育成などが重要です。
まとめ
寝たきり大国からの脱却は、高齢者の健康と自立、そして持続可能な社会の実現にとって極めて重要な課題です。私たち一人一人が問題意識を持ち、政府、企業、地域が連携して取り組むことで、誰もが生きがいを持って暮らせる社会を実現することができるでしょう。具体的な行動を起こすことが求められています。
◎参考データ(参考までに、厚生労働省等の公開資料を集めてみました)
・日本の寝たきり高齢者数:約400万人(2022年)
・世界の寝たきり高齢者数:約1200万人(2022年)
・日本の65歳以上の高齢者比率:29.1%(2022年)
・介護保険制度の予防サービス利用率:約20%
・介護保険制度の給付費:約12兆円(2022年)
・介護離職者数:約60万人(2022年)