はじめに
日本は世界でも有数の高齢化社会を迎えています。その一方で「寝たきり」の高齢者の割合も非常に高くなっています。
厚生労働省によると、2020年における65歳以上の寝たきり予備軍(要介護1・2)は約2000万人、寝たきり(要介護5)は約130万人と推計されています。65歳以上の高齢者における寝たきりの割合は、日本が21.1%なのに対し、フランスは13.7%、アメリカは12.2%となっており、他の先進諸国と比較しても非常に高く、世界の中でも突出しています。
しかも、日本の平均寿命は高い一方で、元気に自立して過ごせる期間である健康寿命は、他国に比べて短い傾向があります。日本では最後の約10年間は寝たきりや認知症などの健康問題を抱えて生きている人が多いのです。
日本の寝たきりが多い背景には、社会制度の問題、家庭環境の影響など、様々な要因が複雑に絡み合っています。さらに、死生観の違いも大きく影響していると考えられます。
以下では、これらの要因について詳しく考察していきます。
- 社会制度の問題
寝たきり率の高さを支えている原因の一つに、日本の社会制度が挙げられます。
欧米諸国では、高齢者が自宅で自立生活を送れるよう、介護保険制度や訪問介護サービスなどが充実しています。さらに、寝たきりになる前に、適切なケアが受けられる仕組みも整っています。
一方、日本では介護保険制度は導入されたものの、欧米諸国と比べるとサービスの質や量は、まだ十分とは言えません。介護施設の不足や介護職員の人手不足が深刻であり、これが家庭での介護負担を増加させる要因となっています。
また、日本では医者が死期を迎えている患者さんを死なせないように、過剰な延命治療が行われていることも一因です。日本では、寝たきり状態でも延命措置が続けられ、結果的に寝たきりの期間が長くなります。
- 家庭環境の影響
日本の文化には「家族と共に生きる」ことを重視する価値観が根強く、これが寝たきりの高齢者を家庭で介護するという形で表れ、高齢者の介護は家族の責任とされることが多いようです。このため、家族全体が高齢者の介護に対して大きな負担を感じます。特に、働き盛りの世代が介護に時間を割くことで、仕事と介護の両立が難しくなります。また、介護疲れやストレスが原因で、適切な介護ができずに寝たきり状態に陥るケースも少なくありません。
日本の家庭は、核家族化が進んでいます。さらに、近年では共働き世帯が増加しており、介護する時間や体力がないという課題も深刻化しています。地域コミュニティの希薄化も孤立を助長し、寝たきりの予防や早期発見・早期介入を難しくしています。
- 死生観の違い
日本の死生観が、寝たきり率の高さを影響している可能性があります。
日本では、高齢者が介護を受けて生活することは自然な流れだと考える人が多く、死後の世界に対する漠然とした不安を抱いている人が多いようです。
欧米諸国では、自立と尊厳を重視する死生観が根強く、たとえ寝たきりになったとしても、できる限り自分らしい生活を送りたいという意識がもたれています。また、安らかな自然死を許す考え方が一般的であり、寝たきりの高齢者が少ない傾向があります。そこで、終末期医療やホスピスケアが普及しており、自然な死を迎えることが一般的とされ、高齢者が自立して生活することが重視されます。死後の世界に対する明確なビジョンを持つ人が多いことも、大きな違いとして挙げられます。
このように、欧米と日本の死生観は、死後世界に対する考え方、死の捉え方、など、様々な点で異なっています。これらの違いは、宗教、文化、歴史などの様々な要因によって形成されてきたものです。こうした死生観の違いも、寝たきりに対する捉え方の差を生み、予防や改善への意識の差につながっていると言えるでしょう。
まとめ
日本が寝たきり大国となっている背景には、社会制度の問題、家庭環境の影響等が、複雑に絡み合っています。その根底には、欧米との死生観の違いがあるようです。これらの問題を解決するためには、介護施設の充実や介護職員の待遇改善、家庭介護のサポート体制の強化、終末期医療の見直しなど、多方面からのアプローチが必要です。日本が高齢化社会として持続可能な未来を築くためには、これらの課題に対して社会全体で真摯に取り組むことが求められています。
*次回は、世間で「寝たきりは作られる」と言われているのは本当だろうか、考察する予定です。