作家の村上春樹は、「褒め殺しがいちばん怖い」と語っている。
ほめ殺しとは、対象をほめたことで、その相手がだめになってしまうことを指していた。
後に、ライバルをつぶすために、過剰にほめ上げて増長させ、大きなスキャンダルや不祥事を誘発させ、社会的信用を失墜させることを指すようになった。
元々は歌舞伎などの芸能関係で使われてきた用語である。
頭角を現し有望格と見なされた若手を、必要以上に褒めることで有頂天にさせ、結局その才能をだめにしてしまうことを表していた。
社会心理学者アロンソンが提唱した「不貞の法則」というのがある。
不貞の法則とは、褒め言葉は馴染みのある人よりも馴染みのない人、初対面の人からの方がより効果的であるという法則のことである。
関係性が強い人からの評価よりも、関係性の希薄な人から受ける評価の方が、承認欲求が満たされ嬉しい気分になる、という心理効果を示している。
つまり、内輪から褒められるより、特に親しい間柄でもない人から褒められる方が、「内輪びいきがないだろう」ということで嬉しくなる、というような効果である。
したがって、男女関係だけに適用される法則ではなく、広く一般社会にも通用する。
ほめられた後にけなされると、評価を失った時のショックは大きく、最初からけなされている場合よりも嫌いになるという報告もある。
誉めることもむつかしいものだ。