剣豪・宮本武蔵は、絵画の世界でも号・二天と称してすぐれた作品を残している。
代表的な作品として、和泉市・久保惣記念美術館にある「枯木鳴鵙図(こぼくめいげきず )」があげられる。重要文化財である。
この絵には、武人としての武蔵の厳しさが示されている。
我が家でも、リトグラフによる複製の掛け軸をかけ、しょっちゅう眺めている。
武蔵の画才は、江戸時代の享和元年(1801年)に発行された、絵師を九段階に評価した『画道金剛杵(がどうこんごうしょ)』で、円山応挙より上位に位置づけられ「気象を以て勝る者なり」との評が添えられているほどだ。
画面の真ん中に、すっと細い枯木が伸び、その上部に止まった一羽の鵙が、厳しい目つきで前方を見据えている。
小さいながらも鋭いカギ状のくちばしと、集中した視線が、張り詰めた空気感を漂わせる。
枯れ木の中間には、ゆっくりと這い上がる尺取虫が見える。
鵙と尺取虫は、動作においては“静と動”、力関係では“強者と弱者”、そして運命は“生と死”である。
次の瞬間に虫を待ち受ける結果を思うと、均衡が破られる前の張り詰めた空気を感じさせる。
この空気感が、広い余白にも鋭い緊張感を漂わせる。
静寂の世界の中の、思いもかけぬ緊迫したドラマである。
この絵は、武蔵のつまびらかな観察力と、一瞬をも見落とさない洞察力の賜物だろう。
まさに「一芸に秀でる者は多芸に通ず」である。