雑草と呼ばれる花が野を飾る

川柳徒然草
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昭和天皇は「雑草という草はない。どんな植物でもみな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方で、これを雑草として決めつけてしまうのはいけない」と言って、侍従をたしなめた。
この言葉は、NHK朝ドラ「らんまん」の主人公・槇野万太郎のモデルである牧野富太郎博士が、昭和天皇に御進講を行ったときに、申し上げた言葉である。

我々は、雑草のことを「人々の身の回りに勝手に自生する草」ととらえている。
春から秋にかけて、野原や空き地、道端にまで様々な花が咲く。
まとめて’雑草’と呼んでいる。
一部の’文学作品’では、「名もない花」という名でも呼ばれる。

雑草は、研究者の間では二つの面から、定義づけされている。
一つは「望まれないところに生えるすべての植物」といった、人間の経済活動の面からの定義である。
他の面は、人間の活動によって大きく変質した土地に発生・生育する植物、というとらえ方である。
アメリカ雑草学会の定義は、「人類の活動と幸福・繁栄に対して,これに逆らったりこれを妨害したりするすべての植物」と、表現されている。

哲学者・和辻哲郎は『風土 人間的考察』の中で、「ヨーロッパには雑草がない」と述べた。
ヨーロッパでは年間を通し降雨量が少なく、空気は乾燥している。
雑草に旺盛な生活力を与えるものは、暑さと適度な湿度が必要だが、ヨーロッパの夏は乾燥期で、夏草すなわち雑草を生育させない。
冬草は主として、牧草となる。
高温多湿で雨が多い日本とは、雑草に与える環境がまるで違う。
したがって、ヨーロッパでは‘雑草’は育ちにくい、ということだ。

ゲーテは、「花を与えるのは自然。編んで輪にするのは芸術」とその詩で歌った。
我々はヨーロッパと違い、自然から与えられた’花’を、輪にしなくても楽しめる文化を持っている。

最近は、スマホを花にかざすと、たちどころに名前が出てくるアプリが多数出ている。
散歩のときに、珍しい花にかざして、こんな名前だったのかと改めて納得することも多い。
雑草と一からげに見ていた花も、名前を知って観察すると、どれもかわいくて美しい。
そして、自分の与えられた場所で、けなげに生きている。
アメリカ雑草学会の定義にある、「人間の活動と幸福・繁栄に、逆らったり妨害する」ために生きている存在とは思えない

人間の勝手が、自然を冒涜していると思えて仕方がない。


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