寄せられた眉に阿修羅の苦悩見え

川柳徒然草
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奈良・興福寺の阿修羅像は日本の仏像の中でも、トップクラスの人気を誇っている。
作家・白洲正子は随筆の中で、興福寺の阿修羅像を「紅顔の美少年が眉をひそめて、何かにあこがれる如く遠くの方をみつめている」と書いた。
この阿修羅像は、光明皇后が夫である聖武天皇の供養のために造らせたもので、聖武天皇の面影を持っているという説がある。
したがって、阿修羅像の苦悩は、亡き夫への想いや自分の立場に対するものかもしれない。

阿修羅というのは、仏教の守護神とされている。
もともと阿修羅というのは古代ペルシャ語のASHURAから来ている。
ペルシャではASHU(生命)とRA(与えるもの)ということから、太陽神として信仰されていた。
ところがインドに伝わると、太陽は暑さを招き土地を干上がらせることから、A(否定辞)プラスSHURA(神)で、神ならざるものということで悪魔とか鬼神になってしまった。
阿修羅は、常に争いを求めており、争いの中にしか生きがいを見いだせない。
永遠の戦いの中で、苦悩と衝突を繰り返している。
そのため、阿修羅は、常に苦しみの中にいるのだ。
したがって、一般的な阿修羅像は、激しい怒りや苦しみを表現する精悍な顔つきをしている。

興福寺の阿修羅像は、一般的な像とは違って、どちらかというと悲しげな表情をしている。
その眉は寄せられていて、その表情から深い苦悩を読み取ることができる。
阿修羅の苦悩は、戦い続ける自分の姿と、仏の守護者としての平和や慈悲への感情の間で、葛藤するものなのかもしれない。

奈良大学の学生プロジェクトが、216体の仏像の写真から顔貌を客観的に分析して、顔の特徴を検出して、感情や年齢を測定した研究がある。
その結果、測定できた仏像の平均年齢は38歳、83.5歳が最高年齢だった。興福寺の阿修羅像は、正面からの写真を用いて測定したところ、推定23歳と出ている。

感情分析では、「怒り」「軽蔑」「嫌悪感」「恐怖」「喜び」「中立」「悲しみ」「驚き」の8つの感情を数値化しているが、阿修羅像は 悲しみ 0.53ポイント、中立 0.46ポイントだった。
仏像の顔貌は、‘中立’という無表情なほどより完璧になるとされているが、この阿修羅像は‘中立’より‘悲しみ’が高く出ているようだ。
悩みが深かったに違いない。

阿修羅は、常に苦しみの中にいるが、それでも、戦い続ける。
人間に対して、阿修羅のように、苦しみの中にあっても、希望を持ち続け、戦い続けなければならないことを訴えているのかもしれない。


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