がん告知を受けた。
ステージ4の、末期がんだった。
それも、医師の表情などでみて、かなり危ないレベルだと思われた。
有無を言わさずという形で、手術日も決められた。
病室が空いてないため、数日間は自宅から検査に通うということになった。
ここまでくると、‘死’ということを強く意識する。
身の回りのことはきれいにしておきたい、家族に余計な心配事はかけたくない、という思いから自宅に帰って、整理を始めた。
誰だって、家族にさえ知られたくない秘密を抱えていると思うが、出来ればそんなものは残したくない。
だいたい、要らないものはすぐ捨てる性格なので、余計なものはないはずだが、それでも気になる。
机の中や、書棚の隅っこなどに、捨てそこなったものが隠れてやしないかと心配で、いつもの数倍もの熱心さで探し物をした。
何を隠しているのか、何かを隠したかさえしっかり覚えていない。
したがって、何を探せばよいのか、わからないまま探す。
探すものが何かわからないものを探すのは、とても難しい。
今になれば、あの時何を捨てたのか、よく思い出せない。
思い切りよく、たくさん捨ててしまったが、惜しかったなと思うものは一つもない。
結局、大した秘密を抱えていなかったのだろう。
あまり隠し事を抱えてないので、大した波風も立たずにでいる。
隠し立てしなくて生きてきたことを、幸せとしてかみしめている。