庭の片隅に、ポツンと咲いている花を見つけると、ついそばに寄ってしまう。
一輪であっても、花には人を引き付ける魅力がある。
星の王子さまは、一輪のバラの花と喧嘩して星を飛び出し、地球にたどり着いた。
しかし、どうしてもバラの花に会いたくて、とうとう毒蛇に噛ませて肉体を滅ぼし、魂だけが星に帰っていった。
千利休の茶の湯の特色は、’花は最高の一輪に集約させる’ことにあったとされている。
利休の庭に咲き誇った朝顔が見事だとうわさを聞き、秀吉が「朝顔を眺めながらの茶会」を望んだ。
秀吉が利休の屋敷を訪れると、庭の朝顔は全てその花を切られていた。
しかし、秀吉が茶室に入ると、朝顔が一輪だけ飾られていた。
一輪だけの朝顔で、見事に侘びの空間が演出されていた。
これを見て、秀吉は利休の美学に感嘆したと伝えられている。
利休は、これ以上は削りようのない、美しさと緊張感が共存するような侘びの世界を作り上げていたのだった。
確かに、薄暗い和室の床の間に飾られた、一輪挿しのツバキなどにはドキリとする、妖しい美しさがある。
しかし、黄金の茶室に見られるような、豪華絢爛好みの秀吉に対する嫌味とも受け止められかねない。
利休が、秀吉に切腹を命じられた理由に、この件も含まれているかもしれない。
素直に、一輪の花の美しさ、可憐さを楽しめればそれでよいのだと思う。