曼殊沙華という文字を見ると、華やかさを感じるが、彼岸花というと暗いイメージを想定する。
洋名では、リコリスという名で、町の花屋で普通に売られている。
少年時代に読んだ、北原白秋の詩集『思ひ出』の中の作品の、のちに山田耕筰作曲により流行した「曼殊沙華(ひがんばな)」の、Gonshan,Gonshan 何処へゆく 赤い お墓の曼珠沙華(ひがんばな) 曼珠沙華 ……というフレーズは、いつになっても不意に頭をよぎる名文句だ。
‘曼珠沙華’の語源は、サンスクリット語の‘葉より先に咲く赤い花’を表す言葉からきている。
曼珠沙華には全国各地に1000種類もの別名があるといわれる。怖いものでは‘毒花’‘痺れ花(しびればな)’‘地獄花’というのがある。
花の色や形からは‘火事花’‘灯籠花’‘雷花’などがある。
なかには、葉と花が同時には見られないことから‘葉見ず花見ず(はみずはなみず)’と、そのものずばりの名前もある。
ヒガンバナの球根には、強い毒性のある‘リコリン’という物質が含まれている。
この毒性から、モグラやネズミを田畑に寄せ付けない効果を期待して、先人たちがあぜ道にヒガンバナを植えたとされている。
しかし、豊富なでんぷんが含まれているため、鎌倉時代や江戸時代には、毒抜きをして救荒作物として利用されていた。
ものすごい手間をかけて毒抜きし、試食した人の話では、ジャガイモデンプンと似たような食味食感らしい。