行きつけの飲み屋に行くと大将が、さっきまで生きてたんですよと、にこにこして鯛の刺身を出してくれる。
美味い酒が進む。
魚をおろして骨皮を取り除き、そのまま食べられる状態に整えて盛りつけたものは‘切り身’である。
江戸では‘切り身’を、魚の区別がつくように、尾頭や尾ビレを実際に切った身に刺していたことから‘刺身‘と呼ばれるようになった。
関西では、魚を切ることを‘造る’と言っていた。
それに丁寧語‘御’をつけて‘お造り’と呼ぶようになった。
つまり、魚を飾り付けているのが‘刺身’であり、切ったまま並べているのが‘お造り’である。
現代は、“造る”というイメージから、飾りつけられた盛り合わせや、切り身にひと手間加えたものを’造り’といっている。
そして、飾り気のない切り身、また、牛や馬などの肉、コンニャクなどの加工品を含む新鮮な切り身全般を’刺身’と呼び、呼び方が逆転している。
魚の旨み成分は、主にグルタミン酸とイノシン酸である。
グルタミン酸については、時間が経ってもほとんど変化がない。
しかし、イノシン酸はハマチによる実験結果では、締めてからしばらくはほとんど変化が無いものの、5~6時間ほどで急激に増加して、14~16時間後に最大値に到達、その後きわめてゆるやかに減少していった。
つまり、締めてすぐより、ある程度熟成したほうが美味いということである。