遠花火哀しい音を連れてくる

川柳徒然草
この記事は約3分で読めます。

正岡子規に、「音もなし松の梢の遠花火」という俳句がある。
子規は明治28年、日清戦争従軍記者として中国に渡り、戦争終結後の帰国中の船内で喀血、その後長期の入院生活を送った。
病室から、松原越しに見た花火大会の様子かもしれない。

‘遠花火’は、秋の季語になる。
子規の句から、遠花火は、遠くから見る‘音のない花火’のことと解釈されることが多い。
しかし、光の塊が消えた後、ゆっくりした音がドーンという音が聞こえてくるのは、なにか’哀しい’情緒があり、これこそ‘遠花火’だと感じる。
夜の静けさの中に、遠くの花火の音が響くことで、遠さや孤独感が強調される。
花火の美しい瞬間が遠くの音とともに訪れ、過ぎ去ることで、一層の哀愁や切なさが感じられるようだ。

夏は、各地で花火大会が開催される。
日本全国で開催される花火大会は、2023年現在、882件あり、ほぼ夏季に集中している。
大勢の人が集まって、涼しい風と共に華やかな光の祭典を楽しむ。
隅田川花火大会をはじめとして、100万人以上の人が集まる大会がいくつもある。
テレビで実況中継される「秋田県大曲花火大会」は、約70万人の見物客が全国から訪れる。

花火大会で打ち上がる花火の数は、平均で約10000発と言われている。
ただし、花火大会によって打ち上げ数は異なり、例えば、利根川大花火大会では約3万発が打ち上げられる。

もともと花火は、お盆に行われる送り火、迎え火の一種とされており、ご先祖の霊を送り迎えする意図が込められていた。
また、花火は慰霊や疫病退散が目的の行事だったという説もある。
江戸時代中期、江戸ではコレラが猛威を振るい、多数の死者が出た。
1733年、将軍徳川吉宗が死者の慰霊と悪霊退散を祈り両国で水神祭りを催し、それに合わせて20発前後の花火を打ち上げた。
これが両国花火大会の始まりとされている。
しかし、コレラの日本国内での流行は、1822(文政5)年に西日本一帯で起きたのが最初だから、後世の作り話だろう。

打ち上げ花火は、火薬を球状に成形した「星」を紙製の球体「玉」に詰めて打ち上げる。
火種を円筒上方の射出口から投げ入れて発射薬に点火し、打ち上げられた玉は、所定の高さまで上昇しながら玉が破裂し星に引火・飛散する。
星には光の尾を引きながら燃焼するもの、落下途中で破裂するもの、色が変化するものなど、様々なタイプがある。
仕掛花火は、速射連発するものや、ナイアガラという点火によって焔管から火の粉が一斉に流れ落ちるものなどがある。

外国の打ち上げ花火は、傘のように平たく開くものが大部分である。
しかし、日本の打ち上げ花火は丸く玉のような形に開くので、美しさも迫力も圧倒的に優れている。

花火は、近くで見るのも遠くで見るのも、それなりの情緒がある。


タイトルとURLをコピーしました